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投資基準は「アナリストの予想を超え続けているか」 ――シバタナオキさんインタビュー中編

「個別株投資ではS&P500に負けたことがない」──シバタナオキさんインタビュー中編では、その驚異的な実績を支える「自分のための投資」戦略に切り込みます。アナリスト予想を上回り続ける企業を見抜く着眼点、市場の「追い風」を読む具体的な手法とは? テスラ、NVIDIAなどの成功・失敗談から、トランプ政権下の市場分析、そして現在のポートフォリオまで語っていただきました。(聞き手:加藤貞顕)

前編:どんな方針で資産を運用している?

アナリストの予想を超え続けている会社に投資する

加藤貞顕(以下、加藤) 10年近く個別株に投資をしていて、S&P500に負けたことがないというのは本当にすごいことだと思いますが、どんな方針で投資しているのでしょうか?

シバタナオキ(以下、シバタ) エンジェル投資の話は別として、上場株の方は基本的に100%グロース投資です。

加藤 グロース投資とは、現時点では割高に見えても高い成長が期待できる企業に投資するスタイルですね。うまくいくと利益が望めますが、リスクもその分大きくて、普通はむずかしいと思います。どういうあたりを狙っていますか?

シバタ スタートアップに近いところで、特にソフトウェアやテクノロジー、ネット系の会社に投資しています。基本的には米国株と、あとは暗号資産の一部ですね。スタートアップの投資と上場株の投資で一番何がちがうかというと、未上場企業は売上と成長率で価値が決まりますが、上場株はアナリストの予想と実際の決算の差分が重要です。

加藤 というと?

シバタ 上場株は、ある程度の規模になってくるとアナリストがコンセンサス(予想)を出すんです。アナリストが事前に予想をしていて、実際の業績がその予想を上回ったか下回ったかで株価が動きます。どれだけ成長していても、どれだけ業績が良い決算を出しても、アナリストの予想よりも低かったら株価は落ちるんです。

加藤 なるほど。上場企業の場合、単純に成長しているかどうかではなく、アナリスト予想に対して成果がどうだったかが重要になるわけですね。

シバタ ぼくが狙うのは、基本的にはアナリストの予想を数四半期連続で超えている会社の株です。さらに重要なのは、優秀なアナリストたちが見落としているかもしれないポイントを見つけることです。アナリストよりも自分の方がもしかしたらくわしいかもしれないこと、よくわかっているかもしれないところを常に探しながら見ています。

加藤 市場の期待を超える要素を自分の専門知識から発見するということですね。これはかなり高度な分析力が必要そうです。ぼくなんかがよくやるミスとしては、「自分の方がくわしい」と思って投資をすると、そんなことはなくて市場のほうが正しくて間違えることもあります。

シバタ それはありますよ。間違うことはいっぱいあります。

加藤 シバタさんでも間違えることがあるというのは、投資のむずかしさを表していると思います。シバタさんが投資分析をどのように行っているのか、もう少し具体例をうかがえますか?

シバタ 基本的には決算を読むのが趣味なので、決算はよく読んでいます。出てきた数字とアナリストのコンセンサスとの比較で上か下かで株価が動くので、それが基本です。そして、何か大きな追い風が来ているかどうかを見ます。アナリストが想定している追い風よりも強い追い風が吹くとぼくが思ったら買います。

加藤 「追い風」とは市場環境や業界動向など、その企業の業績を後押しする外部要因のことですね。具体的な例はありますか?

パランティア、テスラ…「追い風」をとらえた投資事例

シバタ たとえばパランティアの例がわかりやすいと思います。去年、株価がすごく上がりました。

加藤 パランティアというのは、軍関係のIT企業ですよね。

シバタ はい。軍事に強いソフトウェアの会社です。デュアルユーステック(軍事・民間両用技術)なので軍だけでなく民間にも展開しています。たとえば軍がテロリストの情報を集めたいときや、戦争時に特定のインテリジェンスを集める必要があるときに役立つソフトウェアです。ロシアとウクライナの問題や中国と台湾の関係など、緊張が高まったタイミングで買いました。

加藤 軍事情報分野への投資が増えると予想したわけですね。

シバタ 半分勘でしかないですが、アメリカももっと軍に投資をするだろうし、ヨーロッパも当然無視できないだろうし、そうなってくると日本も含めてそれ以外の国もハードウェアだけでなくインテリジェンス(情報)に投資するだろうと思いました。案の定、アナリストの予想以上の追い風で、業績よりもはるかに株価が上がって大きな利益が出ました。

加藤 なるほど。アナリストも成長を予想していたでしょうが、それ以上に波が来て、期待感が高まったのがポイントだったんですね。

シバタ はい。コロナ前にテスラを買ったときもそうでした。

加藤 テスラというのは自動車メーカーですね。特に電気自動車で有名な企業です。

シバタ 当時はぼく自身がテスラに乗っていて、モデル3の量産ができるかできないかという瀕死の状態から、やっと量産ができるようになったという状態でした。

加藤 注文は集まっていたけど、出荷があまりできなくて苦しんでいた時期ですね。

シバタ その状態でも会社のバランスシートはめちゃくちゃで、モデル3の量産ができなかったら倒産するくらいでした。生産ができるようになったことがはっきりわかったタイミングがあったのですが、それでもみんな「会社は借金ばかりだし、まだ赤字だし」と不安なわけですよ。ぼくはそのタイミングで買いました。その時は何を考えていたかというと、社長がテントに寝泊まりして従業員のケツ叩いてとにかく生産できるところまで持ってきていることはわかっていたから、量産ができたら確実に儲かるなと思ったんですよ。

加藤 製品自体がいいということですか?

シバタ はい。ソフトウェアも車も電気自動車としては一番よかったと思います。だから直近の決算は大赤字でも、量産できれば絶対黒字になるし借金も全部返せるだろうと思いました。

加藤 テスラはその時から何倍にも伸びましたよね。

シバタ そうですね。でも途中で売ってしまいました。売るタイミングはすこし早すぎて、ミスったなとも思っています。その例でいうと、NVIDIAも同じ頃に買いました。これはうまくいった話と失敗した話が混ざっているんですけれど。NVIDIAの決算のセグメントには、ゲーム用のグラフィックカードのセグメントがあります。

加藤 もともとはそれが主力でしたよね。

シバタ そうなんですが、ぼくはそこには興味がなくて。もう伸びないと思っていましたから。ぼくが注目したのはデータセンター向けのAIセグメントと車載向けセグメントです。当時はまだChatGPTなどはなかったですが、AIのためのデータセンター需要は必ず伸びるだろうと直感的に思っていました。車載セグメントについても、テスラはNVIDIAのチップを使わないかもしれませんが、他の自動車メーカーが自動運転技術を開発するためには間違いなくGPUが必要になるので、大きく成長するだろうと予測して、コロナ前に買いました。

加藤 結果はどうでしたか?

シバタ それがぼくが思ったようなペースで2つのセグメントが伸びなかったんです。株価は上がっていたので利益は出ましたが、途中で売ってしまいました。もし去年まで持っていれば、すごいことになっていたのに。追い風は、「追い風を当てる」のと「追い風が来るタイミングを当てる」の2つがありますね。

加藤 どこまで保有するかの判断はむずかしいですよね。倍くらいになるとどうしても売りたくなる。

シバタ そうなんです。NVIDIAの例でいくとぼくは早く売り過ぎてるわけですよ。風の読みはめちゃくちゃ当たっていたのですが、売るのが早すぎました。

加藤 上がっている株でも、途中で何かショックがあるとがくんと下がる瞬間があるから、そこで売ってしまいがちですよね。

現在の投資状況

加藤 現在のシバタさんの投資状況についてうかがいたいと思います。今日は4月16日(収録日)ですが、トランプ関税などでマーケットがだいぶ混乱してる状況ですよね。

シバタ マーケットはこれからもしばらく悪いのかなという印象があるので、株はあまり持っていません。2月くらいにほぼ全部売ってしまいました。

加藤 雲行きが怪しくなったときに一気に売ったんですか?

シバタ そうですね。「これはもうこのままよくなることはないな」と思って売ってしまいました。

加藤 じゃあいまは株にほとんど投資していないんですか?

シバタ 唯一、楽天株は持っています。アメリカの証券会社で買えるADR (American Depositary Receipt)を買いました。

加藤 なぜ楽天株だけ持っているんですか?

シバタ 楽天はぼくが在籍していた頃から比べると、売上や事業規模では数倍になっていますが、時価総額はあまり変わっていないんです。楽天モバイルが財務的に大変だったときの、一番株価が低いときに買いました。もし楽天モバイルがうまくいって、ぼくはうまくいくと思っていますが、黒字になって借金が返せる目処が立った瞬間に、会社としては最強に儲かるようになるわけですよ。

加藤 元社員として会社のことをよく知っているから投資しているということですね。

シバタ はい、インサイダー情報を持っているわけではありませんが、自分が勤めていた会社なので、営業モードになった瞬間にかなり成果を出す可能性が高いというのはわかりますし、がんばってほしいという気持ちもあります。

加藤 楽天の株価が安いのは、楽天モバイルなどに財務的に投資しているからですよね。アナリストの見解もそうですが、シバタさんは楽天の力があればこれを乗り越えられると考えて買っているということですね。

シバタ そうですね。赤字や負債の話ばかりがニュースになっていましたが、財務的にも資産は十分あるわけです。売れる資産はいくらでもあって、事業として売りたくないから売っていないだけです。本当の意味で会社が潰れるかどうかという話であれば、潰れることはそうそうありません。

加藤 たしかに。

シバタ カードやアメリカの事業、ヨーロッパの事業も、売ろうと思えば買い手はたくさんいるのに、楽天の人たちが売りたくないと言っているだけなんです。

加藤 これで楽天モバイルがある程度うまくいけば、株価も大きく伸びる可能性がありますね。ほかにいま投資しているものはありますか?

シバタ ドイツのETF(上場投資信託)を買いました。

なぜいまドイツ?

加藤 ドイツのインデックスか。なるほど。いまドイツが投資先として注目されているという話がありますね。

シバタ ドイツは借金が非常に少ない国です。ロシアとウクライナの戦争の関係で、大規模な財政支出を出せるようにするっていう法案が通ったんですよね。おそらく特に軍事面での投資をかなり積極的に行うのではないかと思います。

加藤 ドイツは借金が少ない国なんですか?

シバタ はい。もちろん借金はありますが、アメリカや日本などと比べると先進国の中では非常に健全な方です。

加藤 そうした国が積極的な財政政策を行うというのは、たしかに投資としてはポジティブな要素ですね。シバタさんは暗号資産は持っていますか?

シバタ いまはビットコインと、リップル(XRP)を持っています。これはトランプが大統領になるときに、「アメリカの国産の暗号資産には税金をかけないようにする」という噂が流れたからです。暗号資産に「国産」もくそもないと思うんですが、おそらくアメリカの内国歳入庁がきちんと管理できる暗号資産に関しては何らかの優遇をするという話だったのかなと思っていて、その中の1つがリップルだったので買いました。すごく値上がりして、いまはマーケット全体が悪い状況ですが、それでもまだ含み益が出ているので、もう少し持っておこうと思っています。あとは債券のETFを買っていますね。

加藤 アメリカ国債のETFですか?

シバタ アメリカ国債よりはちょっと利回りがいいものを買っています。大企業の社債を中心にまとめた商品です。ほとんど現金に近い性質になりますが、現金よりはちょっとだけ利回りがいいものです。

加藤 なるほど。現金はあんまり比率を高く持たないのでしょうか?

シバタ 実はぼくは家族に怒られるくらい現金を持たない人間なんです。毎月の家計支出の2ヶ月分くらいしか現金として持っていません。

加藤 それはそうとう少ないですね。一般的には緊急時のために最低でも3〜6ヶ月分は持っておくべきだと言われますよね。

シバタ はい。それくらいをお勧めします。ぼくは投資にまわさないのはもったいないと思ってしまっていつもけっこうギリギリです。アメリカなので基本的に買い物は全部カードですし今のところ一度もトラブルになったことはないですが。

加藤 たしかにアメリカはもともとあまり現金を使わない社会ですね。

シバタ なのでいまは例外的に楽天株を持っているのと、ドイツのETFを持っているのと、それ以外は基本的に暗号資産ですね。ビットコインとリップル、あとは少額の銘柄です。債権はほとんど現金に近いものとして持っています。

加藤 債権比率はどのくらいですか?

シバタ 自分の「欲のための投資」の部分で言うと、現時点では半分くらいが債券ですね。

加藤 なるほど。やはり現状は株式には投資しづらい環境だと感じているんですね。

シバタ そうですね。いまは株式には投資しにくいと思っています。もしいまこの瞬間にどこかに投資するよう強制されたら、おそらくドイツ系の株を買うと思います。アメリカで買いたい株はいまのところないですね。関税とインフレの話がどうなるのかわからないので怖くて買えないですね。

米国株式市場はどうなる?今後の見通し

加藤 今後の見通しについてうかがいたいです。シバタさんのように、家族や自分の老後用に長期の積立投資をしながら、趣味的な予算で個別株投資をしている人は多いと思います。そのうえで、みんないまの市場環境は、今後どうなるんだろうと思っていると思うんです。特にアメリカ市場がどうなるのか気になっている人が多いと思うので、アメリカ在住のシバタさんの見解を教えてください。

シバタ もちろん将来のことはわかりませんが、基本的にアメリカの株式市場はあまりよくならないと思っています。少なくとも今年の後半くらいまでは。なぜそう思うかというと、トランプ政権が関税をかけようとしているからです。基本的に関税をかけるとインフレが起きます。インフレすると生活が苦しくなるので、インフレを抑えるために金利を上げることになります。これは過去数年間、コロナ後に実際に行われてきたことです。

加藤 はい。

シバタ コロナの時に大量の資金供給があり、大きなインフレになって、そのインフレを食い止めるために金利を急激に上げたわけです。専門家からの誤解を恐れずに非常にシンプルにお話すると、マクロ経済的には、インフレ率と金利の差がGDP成長率になります。アメリカはこれを2〜3%程度に抑えたいわけです。ゼロでも困るし、10%などになっても困ります。アメリカのGDPが10%も伸びるのは経済的に不安定になるので怖いことなんです。

加藤 なるほど。

シバタ なのでGDP成長率が2〜3%に収まるようにインフレ率を見ながら金利を調整してきました。最近は落ち着いてきたので「金利を下げよう」という話をしていたのですが、関税導入によってインフレ率が上がると、金利を下げられなくなります。

加藤 金利が高いままだと株式市場には厳しい環境ですね。

シバタ そうです。金利が高いと、リスクなしで一定のリターンが得られるため、株のような高リスクの金融商品にお金が流れにくくなります。これは一般的な話です。

加藤 株を買わなくても預金で利回りが得られるわけですからね。

シバタ そうです。たとえば金利が4%なら、単純に定期預金に入れておくだけで毎年4%の利息がつくので、半分になるかもしれない株を買う人が減ります。そういう意味で株式市場にはよくないと思います。

加藤 一方でトランプは金利を下げたいとも言っていますね。

シバタ そこはちょっと矛盾していますね。ぼくの見立てでは、株式市場が多少傷ついても、今回の関税政策を押し通す方針ではないかと思います。そうであれば、アメリカの株式市場には厳しい環境が続くでしょう。なので、投資するのであればアメリカ以外で投資した方がいいかなと思います。インデックス投資でも、全米よりは全世界の方がいいかもしれませんし、ぼくがやったようにドイツのETFを買うというのも選択肢だと思います。

加藤 日本や中国についてはどうですか?

シバタ 中国はぼくは触らないと思います。日本はありだと思いますが、為替の問題があります。ぼくは基本的にドルで資産を持っていて、一部日本円での収入もあるので、円高になると有利になります。日本に住んでいる人は円ベースで資産を持っているので、為替の影響はあまりないでしょう。その場合は業種やセクター選びが重要になります。

加藤 日本に住んでいる人が日本株を買う場合の見方を教えてください。

シバタ 日本で投資するなら、輸出関連企業は関税の問題でリスクがあります。日本はそういう会社が多いですからね。日本企業に投資するなら、自分が確実に信じられる追い風がある企業を選ぶべきです。たとえば、日本もこれから軍事関連の支出が増えざるを得ないという追い風を強く信じられるなら、国防関連のビジネス比率が高い企業などが考えられます。

加藤 三菱重工などでしょうか。

シバタ そういった企業もありかもしれません。あるいはAIのデータセンター需要など、関税の影響を受けにくく、日本国内で確実に成長すると自分が強く信じられる分野の企業も検討できます。基本的には、過去の四半期決算をきちんと見て、アナリストの予想を上回っている企業を選ぶことが重要です。

加藤 アメリカ市場が厳しいと日本市場も連動して厳しくなりそうですが、今後1年の見通しはどうでしょうか?

シバタ 株式市場全体としてはたしかにアメリカに引っ張られると思います。厳しい局面は多いでしょうが、それでも個別には良い会社はいくらでもありますし、全体が悪くても伸びる会社もあります。個別投資をするなら、そうした銘柄を丁寧に探していくというのがいいのではないでしょうか。ただ、大半の人にとってはNISAのような税制優遇制度をきちんと活用する方がメリットが大きいと思います。

加藤 なるほど。

シバタ NISAでこれまで米国のインデックスファンドを購入していたとしたら、今年からは全世界株式のインデックスファンドを選んだり、他の地域の株式と組み合わせたりするなどはやってもいいかもしれないですね。

加藤 なるほど。去年あたりからNISAをはじめたばかりの人は、市場の下落に不安を感じていると思うので次回はそのあたりの話をくわしくうかがいたいと思います。

(次回、『投資において最大の武器は「時間」』は5月28日公開予定)

シバタナオキさんプロフィール

1981年生まれ。東京大学大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻 博士課程修了(工学博士)。楽天執行役員、東京大学助教を経て、スタンフォード大学の客員研究員として渡米。米国シリコンバレーで起業。noteで「決算が読めるようになるノート」を創業し、決算分析の独自ノウハウを伝授している(2022年に事業譲渡)。著書は『MBAより簡単で英語より大切な決算を読む習慣』(日経BP)、『テクノロジーの地政学』(日経BP)